バーナーワーク(またはランプワーク)はガラスをバーナーで熔かしながら成形する技法です. ガラス棒やガラス管を主な素材として用います. 一般的に精緻な細工に適する技法とされ,驚くべき造形を可能とする技術も開発されています. そのため,手順通りに作業をこなすことが出来れば,相当なレベルの作品が作れるようになります. しかしその一方で,類型化した作品から一歩を踏み出すと,忽ち困難に遭遇する場合が少なくありません. オリジナル作品を思い通りに仕上げるためには様々な,新しい技術やアイデアが必要となります.
ウミウシとは,巻貝の仲間の直神経類に属する複数のグループの総称です.
これらのグループの下にはさらに小さな分類群が存在します.
したがって,一口にウミウシといっても,非常に多くの種類が含まれます.
巻貝の仲間とはいえ貝殻は退化・消失し,露出した軟体部は多様な形態,色彩および紋様を獲得しています.
試しに「ウミウシ」というキーワードで画像を検索すれば,その多種多様な姿を目にすることができます.
しかし実際は体長数cm以下の種が大多数であり,また飼育が困難でもあることから,その美しい姿に接する機会は限られます.
作者がウミウシの美しさを知ったのは2004年の終わり頃,小野篤司著『沖縄のウミウシ』を手にした時でした.
本を閉じたとき,何か素晴らしい宝物を手に入れたような感覚に満たされたことを憶えています.
この頃バーナーワークでは,ガラスの発色を生かすために,作品サイズが徐々に大型化していました.
自然,ウミウシを制作目標と定めたものの,環境を整えて制作を始められたのは2007年からでした.
しかし当時のものは平凡でボリュームが無く,色彩的には全く満足できませんでした.
また,ミノウミウシのように,形を作ることすらできないものが沢山あることが分かりました.
結局この試みは一時的に中断せざるを得ませんでした.
状況が変化し始めたのは,バーナーの火力の向上と,中断期間に手掛けた野花の制作技術のお陰です.
コンロンカの制作の合間に,ミノウミウシの作り方がふと頭に浮かびました.
次の変化が訪れたのは,バーナーブローの応用を思いついたときです.
その後,触角や鰓の造形技術を開発し,これらの結果が現在の作品に繋がっています.
作品制作においては,ウミウシの驚異的な色彩美および造形美をガラス固有の美と両立させることを第一義としています.
したがって,ウミウシをリアルに再現することは必ずしも目的ではありません.
腹足や前足隅などの目立たない部位は省略する一方,ウミウシの種を外見的に特徴づける部位,
例えば外套膜,触角,二次鰓,背側突起等はウミウシの美を象徴するものとして,
その形態,配列,紋様および配色について可能な限り表現するように努めています.
作品サイズは,ウミウシの実寸法とは無関係に,5~10cm程度です.
ウミウシをモチーフとしたガラス作品としてはかなり大きいサイズになります.
軟質ガラスを用いたバーナーワークの作品としても大型です.
使用している素材は佐竹ガラスの鉛ガラスおよびソーダガラスのみです.
加飾用材料等は使用していません.
これらのガラスは軟質ガラスと呼ばれ,融点が低く,色の種類が多いという特徴があります.
硬質ガラスと比較すると割れやすく,加工に多くの制約が掛かります.